摂食症と診断されたら意識すること

 私はこれまでに何度か、女子長距離選手から「摂食症と診断されて、うつ病にもなっていると言われたけれど信じられない。医者の言っていることは本当でしょうか?」という内容のメッセージをいただいたことがあります。その経緯は、食が細いことや低体重などを心配した家族に勧められ、精神科や心療内科を受診し、摂食症と診断されたというものです。そして
「周りと同じように走れているのに摂食症?うつ病?学校にも行けているのに?」
「自分の身長で長距離やっていたら体重はこんなものだから普通の人と同じ基準で摂食症とは言えないんじゃないか?」
というような疑問が寄せられてきました。

 「走れているし学校も行けているのに、摂食症や鬱病と言われるのは納得できない」という感覚を抱くのはとても自然なことだと思います。
 摂食症には、①神経性やせ症、②神経性過食症、③過食性障害があります。そして①の神経性やせ症の診断基準には『低体重(BMI 18.5未満、ただし、17.0~18.5は場合による)』というものがあります。
 例えば身長158㎝でBMIが18なら、体重は約45㎏です。医学的には痩せすぎの状態ですが、駅伝強豪校レベルの練習をしている人にとっては「そのくらいの人はたくさんいる」となるでしょう。ですから、医師の診断に「納得できない」ことは自然な感覚だと私は思います。しかし、医師の診断を間違いであると断言することは私には出来ません。

 まず、陸上長距離選手やそのコーチが意識しておかなければならないこととして、

「走れていること」と「病気でないこと」はイコールではない
ことを挙げておきます。特に普段から練習を積んでいる選手は、症状があっても走れてしまうことが多々あります。(これは摂食症に限ったことではありません。疲労骨折など身体的な傷病でも言えることです)

 先ほど挙げたBMIの数値は、摂食症の診断基準として参考にされるものですが、摂食症は「痩せているかどうか」や「食べられているかどうか」だけで判断されるものではありません。

  • 食事量が少ない
  • 体重や体型への不安が強い
  • 食べることに罪悪感がある
  • 練習量が多く、消費が摂取を上回っている
  • 本人は“普通”と思っていても、身体が明らかに負荷を受けている(身体が受ける負荷としては、無月経、月経不順なども挙げられます)
こうした状態が重なると、本人の自覚が薄くても摂食症の診断がつくことがあります。
部活で体重制限などがあると、上記のような傾向に陥ってしまうことは珍しくありません。

 では次に、うつ病の診断の場合を考えてみます。私の感覚では摂食症よりもうつ病の診断を受け入れにくい人のほうが圧倒的に多い印象があります。うつ病の場合、摂食症よりも症状が隠れやすいことが原因なのかなと考えています。いくつか例を挙げてみます。

  1. 練習が“気分の調整”になってしまい、症状が見えにくい
  2. 競技の規律が生活を支えてしまう
  3. 「弱さを見せられない」という心理的背景
  4. 周囲の期待が強く、休むという選択肢が取りにくい

 本人もうつ病として気づきにくい原因としては1と2が多いと思います。本当は辛いはずなのに走っている時の高揚感や毎日決まった時間に練習するといった規則性が、気づきにくくさせているのではないか。うつ病の症状があっても、普段の練習中心の生活は何とか回ってしまうことが多いと思うのです。
 そしてこれは、サラリーマンが毎日一生懸命、夢中になって働いて、でも働きすぎに気づかなくて、健康診断などである日突然体を壊していることに気づかされた、ということに似ているなとも感じています。

 では「診断を信じろ」と言っているのかと問われるとそうではありません。医師の診断を信じる信じないではなくて、自分の感覚を大事にしてほしいと私は思います。そうすると、医師の診断内容には信じる信じない以前に「疑問」が浮上してくるはずです。それは「競技者としての自己認識」と「医療者の診断」がズレている状態です。その時点で、医師に自分の感覚を伝えることが必要になります。

 繰り返しますが、「診断を信じろ」という話ではありません。
『あなたが感じていること』と『医師が見ていること』の両方に意味がある。
そのことを大切にして欲しいのです。
これは医療の診断に限ったことではありません。自分の感覚を大切にし、そこに他者の感覚を受け入れていくこと。アスリートとして成長するにも、社会人として働いていくうえでも、とても大切なことだと私は考えます。

 簡単にまとめてみます。
 摂食症やうつ病と診断されたら以下2点を意識してください。
1,まず自分の感覚を整理する。
2,次に医師に自分の感覚を(納得できないことも含めて)伝え、診断理由を聞く。
ほとんどの医師はあなたの感覚を尊重して疑問に答えてくれるでしょう。

 もし、自分の感覚が尊重されていないと感じたり、受け入れ難い返答だったら、別の専門家、例えばスポーツ医学に詳しい精神科医、女性アスリートの健康に詳しい婦人科医、栄養士(スポーツ栄養)、心理職(臨床心理士、公認心理師)などの意見を聞くことも検討してみてください。もちろん、私やこのサイトの賛同者の意見を参考にしていただくことも可能です。その場合はメールフォームよりご相談ください。

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