「体重が軽いほうが速く走れるから痩せたい」
そのような希望を、特に10代の高校生から聞かされることがありました。
確かに、同じスピードでも体重が少ないほうが酸素消費量が少なくてすむし、長時間のレースでは膝などへの負担が少なく楽に走れるように思えます。しかしこれは大きな間違いです。
「女子長距離選手の摂食障害|原因と問題点」でも述べましたが、「体重が軽いほうが速い」という誤った信念が摂食症をはじめとするランナーの健康を阻害する大きな要因であると私は考えています。
体重が軽いほうが速く走れる…そう考えている人に私は「軽いよりも強いほうが速く走れる」と伝えます。
体重が軽いから速く走れると言っても、速く走れるようになるまで削った身体は脆く砕けやすい。スタートラインに立った時、或いは襷を受け取った瞬間、すでに疲労骨折のリスクが高まった状態です。冷静に考えれば、それがいかに怖いことか分かることでしょう。
「軽いよりも強いほうが速い」を具体的に言うと、「減量で削るよりもしっかり食べて絞れ」ということでもあります。
私がコーチなら、運動した分しっかり食べて補強や体幹を積極的に取り入れ絞って見せろ、と伝えます。痩せようと考える前にまだやっていないこと、やれることが山ほどあるだろう、と。
ある意味とても厳しい要求かもしれません。しかし大きな舞台で勝つこと、結果を残すことを目指すなら、厳しさは当然のように必要です。そこを私は否定しません。
一方、厳しいトレーニングを積んでも良い結果が出ないことのほうが多いのも現状です。そのようなとき、体重は自分でコントロールできるので選手もコーチも「減量」に逃げ込みやすいのです。
『不安 → 食事制限 → 一時的に結果が出て安心』、しかし身体は弱り長期的に見ればパフォーマンスは低下します。そして、『結果が出ない → さらに体重を落とそうとする』悪循環に陥ることもあります。
身体を「削る」のと「絞る」のとでは全く違う印象があります。
人間は、意識する言葉や感覚を変えるだけで、行動も変わってきます。摂食症にならないために、食事制限で痩せるのではなく、食べながら身体を絞るという意識を持つこと、そして食事は敵ではなく走るための燃料であるという当たり前の感覚を持ち続けることが大事になると思います。
文中、「逃げ込む」という表現を使いましたが、コーチが食事制限や体重目標を設定、強要することは、コーチングの放棄であると私は考えます。また、選手が痩せて速くなりたいと考えてしまうことは、強くなることから目を背けて、安易な発想に飛びついてしまうことのように思えるのです。
私は、誰よりも練習をするべきだ、とは考えませんし選手に伝えたこともありません。でも、誰よりも真剣に取り組むべきだ、とは伝えます。真剣さなら誰にも負けないと言えるように競技に取り組め、と伝えます。真剣であれば、何をどう食べるのか、「食」に対しても真剣であるはずです。安易な発想に逃げ込むことなく、本当の強さを追い求めてください。
