女性アスリートの三主徴(概要)

この記事を書いている現在から10年前の2015年、スポーツ庁の事業で若年女性アスリートに「女性アスリートの三主徴」についての調査が行われました。
その結果、78%の人が「女性アスリートの三主徴」を「知らない」ことが報告されています。
今も知らないまま競技を続けている人、指導している人は多くいると考えられます。
そこでこの記事では「女性アスリートの三主徴(Female Athlete Triad)」の概要について述べておきたいと思います。

女性アスリートの三主徴の概要

女性アスリートの三主徴は、女性アスリートに特有の健康問題として、以下3つが連鎖的に発生する状態を指します。

利用可能エネルギー不足
摂取カロリーが基礎代謝や日常生活、運動で消費されるエネルギーを下回る状態です。過度な減量や、摂食障害、あるいは単に食事量が運動量に見合っていない場合に生じます。これが三主徴の根本的な原因と考えられています。
視床下部性無月経
利用可能エネルギー不足が続くと、脳の視床下部から分泌されるホルモンが抑制され、卵巣からの女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が低下し、月経が停止または不規則になる状態です。初経が遅れる思春期遅発症も含まれます。
骨粗鬆症
エストロゲンの低下は、骨密度の形成・維持に悪影響を及ぼし、骨がもろくなります。これにより疲労骨折などのリスクが著しく高まります。特に成長期にあるアスリートは、骨密度が形成される重要な時期に骨量が十分増えず、将来の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。

結果として競技パフォーマンスの低下、怪我のリスク増大、そして将来的な健康問題につながるため、早期の発見と対策が重要です。

「女性アスリートの三主徴」は最初、1997年にアメリカスポーツ医学会(ACSM)がスポーツをする女性の健康問題として「摂食障害」「無月経」「骨粗鬆症」の3つを定義しました。
しかし摂食障害を伴わないケースでも同様の問題が発生することが明らかになったため、2007年には「摂食障害」から「利用可能エネルギー不足」へと改訂されています。
「摂食障害」を含む様々な要因が「利用可能エネルギー不足」を引き起こすという考え方です。
このエネルギー不足が無月経や骨粗鬆症などに繋がるわけですから、選手生命や健康についてアスリート自身、そして指導者が優先的に意識しなければならないのは「利用可能エネルギー不足」にならないようにすることであると言えます。

女子長距離選手が利用可能エネルギー不足に陥る原因のひとつ「摂食障害」についての記事、「女子長距離選手の摂食障害|原因と問題点」を公開しています。
ぜひご一読ください。

【参考文献】

・ダン・ベナードット 著「スポーツ栄養学ハンドブック」(東京大学出版)2021年