【実例】女子長距離選手の体重管理と体脂肪率

 2015年12月、NHKで放送された「クローズアップ現代+」で、当時実業団を一度引退していた西澤果穂さんがインタビューに答えていました。インタビューの中で西澤さんは当時の練習ノートを開きます。厳しかった体重管理を思い出しながら「これも結構落としていた体重…」と語った数値は42.7㎏です。

 画像を見てわかるように放送ではこの体重に光が当てられていましたが、私が驚いたのはその下の体脂肪率でした。6.9%です。家庭用の体重計で測ったとしても、体重が42.7㎏と軽量ですから大きくずれているとは思えません。間違いなく1桁の体脂肪率だったことでしょう。しかしコーチは41㎏台まで落とするようにとさらなる減量を求めます。

 こうした指示は大きな試合に向けた調整時期ではなく日常的なものだったそうです。体脂肪率が一桁の女性選手にさらに減量を強要する…ちょっと考えにくいことです。野口みずきさんの五輪マラソン当日の体脂肪率が7%であったことを考えると、その異様さが想像できるのではないでしょうか。
 目標とする大会が近いわけでもないのに体脂肪率が一桁であったら、私なら体重を落とすことは考えません。体脂肪率が低いことで故障するリスクを考えると、むしろ栄養面を見直し食べることを勧めるでしょう。それに減量させるくらいなら、その労力を他のトレーニングに活用した方がはるかに効率的です。
 西澤さんのケースの場合、私の感覚では、コーチと監督の見識と人間性を疑います。怒鳴ってバイクを倒すこともあったようですから、何もかもが度を越していたとみて間違いないでしょう。この陸上部は文書で「選手の夢をかなえるため、ケガや故障防止を目的として…」と回答しています。とてもではありませんが、ケガや故障防止を目的にしているとは思えません。

 こうした過度な体重管理は高校の駅伝部にも見られるようです。「軽い方が速く走れる」、そう考えている指導者が多いのが現状なのでしょう。しかしこの考え方は、最大酸素摂取量からの視点でしかありません。もっと旧体質な指導者であれば、軽い方が身体への負担が少ないに決まっている、程度の考えかもしれません。
 アスリートであれば、食べ物に気を使い暴飲暴食は避けるべきですが、何よりも大事なことは「走った分だけしっかり栄養を取ること」です。激しい運動をしていながら必要最低限のカロリーしか摂取していないと、破壊された骨や筋肉の修復が間に合わなくなります。その状態が長く続くとホルモンバランスにも影響します。月経不順や無月経、疲労骨折などの怪我、情緒不安定などになりやすく、あまり良い状態とは言えません。

 女子マラソンの世界記録保持者、ポーラ・ラドクリフは著書の中でこう言っています。

生理が始まるには体脂肪が15~17%は必要だと主張する栄養士もいますが、私は体脂肪12~13%程度できちんと生理があります。その理由を解く新しい考えかたは、重要なのは体脂肪の絶対量ではなく、カロリーバランスだとするものです。

この考え方に私も賛成です。 体重管理をするのであれば、むしろ厳しいトレーニングで体脂肪率が低くなりすぎていないかを気にするべきなのです。

【引用文献】
ポーラ・ラドクリフ著 「HOW TO RUN ポーラ・ラドクリフのランニング・バイブル」Discover 21, Inc. 2012年