「メンタル」「メンタルトレーニング」とは何か?

 今回は「メンタル」と「メンタルトレーニング」について考えてみます。メンタルについては時々質問されるのですが、昔も今も多いのは…
「メンタルを強くするにはどうしたらいいですか?」
「メンタルがボロボロで緊張してしまって困っています」
といった内容のものです。
 こういった質問を受けたとき、私は時々「あなたは『メンタル』という言葉をどういう意味で使いましたか?」と聞き返すことがあります。すると悩んで返してくれた答えには「心」や「精神」というものが多く聞かれます。悩まずに即答する人はあまりいません。それほどメンタルという言葉の意味は曖昧なのだと言えます。

曖昧さの原因

 英語で書くとmentalです。和訳には片仮名の『メンタル』が定着しています。ではそもそも英語のmentalはどういう意味なのかと考えてみると、mentalは『精神的な』『心の』『知的な』と広い意味がある形容詞なので一語で使われる場面はほとんどありません。
和製英語のメンタルを英語にすると…
「メンタルが強い」は mentally strong / have a strong mentality / mentally tough などと表現されます。これを、My mental is strong. と言ってしまうとネイティブは「え?」となるはずです。
 同じように「メンタルがやられた」を、My mental is broken. と言ってもおかしなことになります。 I'm mentally drained. のように話すことが多いと思います。
 他に代表的な表現では
 mental health → メンタルヘルス、心の健康、精神衛生
 mental strength(mental toughness) → 精神力
 mental state → 精神状態、今の気分
 mental age → 精神年齢
 mental energy → (集中力などの)精神能力
などが挙げられます。
 日本語の「メンタル」は、英語の熟語の後ろの名詞を省いて「メンタル」一語で使われます。「メンタル」の意味は、health(健康)state(気分)についてなのか、strength(力)なのか、聞き手は会話の中で解釈しなければなりません。意味が曖昧になる要因は、ここにあると思います。しかも解釈することなく漠然と「メンタル」が使われている場合が多いようにも思います。
 しかしスポーツの現場では曖昧なままではいけません。競技におけるメンタルの意味について、コーチや選手がどう考えているのか?それをしっかり認識しておく必要があります。

競技におけるメンタルとは

 競技、特に陸上競技におけるメンタルとは何か?
 指導者や選手の中には、「強い気持ちを持つこと」や「根性」「我慢強さ」と捉えている人も少なくないようです。先ほどの英語の話に戻りますが、mental toughness はタフネスとあるからか「根性」と訳されることがあるようです。
 しかし英語の mental toughness はスポーツ心理学の用語では定義が全く違います。4つのCで定義されることが多く…

  • Control 感情(思考)と行動をコントロールできる
  • Commitment 自分が取り組むべき課題に意識を向け取り組む
  • Challenge プレッシャーを脅威じゃなく機会や挑戦と捉える
  • Confidence 自信を保てる

…となります。この4つのCの中で特に①を重視し、私は
『スポーツにおけるメンタルとは、どれだけ集中しどこまで冷静でいられるか』
であると定義しています。

 中・長距離選手の練習やレースの光景から考えてみます。
 駅伝の1区で、ある選手が先頭集団から遅れたとします。沿道にいたコーチは「前に食らいつけ、あきらめるな」と声をかける。それこそ「根性」で食らいつくイメージです。しかし、集中と冷静さを維持出来ているならば、集団から離れても弱っているからではなく、「ペースが速いから離れておこう」というように、自分の意志で離れるはずです。完全に疲労困憊だったとしても冷静であれば「一度離れて呼吸を整えてみよう」のように考えることでしょう。これが「もう駄目だ、ついていけない」となったときは集中力はなく、冷静さも失われています。「あきらめるな!がんばれ!」と声をかけても時すでに遅く、選手が回復することは望めないでしょう。
 ペース走やインターバルなどのトレーニングでも遅れる選手に対して「あきらめるな」「もったいない」と呪文のように毎日繰り返し声掛けをしている指導者を見かけたこともありますが、効果は見込めないでしょう。

 私は4つのCの①から、スポーツにおけるメンタルの強さを「どれだけ集中しどこまで冷静でいられるか」と定義したわけですが、裏を返せば、集中と冷静さに必要なことが感情(思考)と行動のコントロールであると言えます。つまり、感情(思考)と行動をコントロールするための技術の習得、それが私が提案するメンタルトレーニングになります。

メンタルトレーニングとは

 メンタルは強い、弱いと強弱で語られることが多くあります。私も時に使ってしまうのですが、そもそもメンタルは強弱で測るものではありません。特に先ほどの4つのCの
①感情(思考)と行動のコントロール
を見るとわかりやすい。これが可能な状態は、「強い状態」というより、思考と心理が「安定した状態」「整っている状態」と言えるでしょう。
 普段から行うべきトレーニングは、①思考のコントロールです。感情も行動も、思考(脳)が生み出すものですから、思考のコントロールが大事になります。そのための基本的な手法は『自分の良い部分を意識し、維持すること』です。そして、自分の良い部分を意識し続けることは、自分が取り組むべき課題に意識を向け続けることにもつながります。これが集中の持続にも関係してきます。
 トレーニングについての詳細は、姉妹ブログ「路地裏のランナー」の記事、
『インターバルで大事なこと |西澤果穂さんの400m×12本より』
を是非ご一読ください。

 選手はレース中に様々な決断、判断をすることになります。その決断に必要なのが「集中」と「冷静さ」であり、その土台になるのは、「きつかった」「苦しかった」ではなく、「やりきった」「練習できた」と思えるトレーニングの積み重ねです。そこに「精神論」や「根性論」の入り込む余地はありません。

 さて、ここまで述べた内容の一部は、『路地裏のランナー』の記事
『メンタルの強さとは|林田玲奈さんの引退レースより』
と重複している個所もあります。こちらもぜひご一読ください。
そして最後に、同記事の最後の部分を以下引用して終わりたいと思います。

弱気な人、心配性な人の中には
「自分はメンタルが弱い」と口にする人がいます。
はっきり言うと、それは間違いです。
メンタルの捉え方はもちろん、そう思うこと自体、間違っています。
不安になりやすい人が弱いとは限らないからです。
自信とは、不安の上に纏うものだと私は思います。
自信が持てないなら、剥き出しの不安のままでも良いのです。
不安を抱えたまま集中すればよく、その方法を見つければいい。

最後にもう一度、まとめておきます。
「自信とは不安の上に纏うもの」
「弱気で心配性の人が弱いとは限らない」
「メンタルは強弱ではなく、心理的な状態の良し悪しで捉えるもの」
「スポーツにおけるメンタルとは、『どれほど集中しどこまで冷静でいられるか』である」

陸上競技専門blog 路地裏のランナー